福岡市議会
民主・市民クラブ
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 2.4.クオッパヌンミ総合学校
 
【概要】
 2004年に設立されたこの学校は、就学前教育から小中学校までの時期を同じ敷地内の安全で安心な環境、およびゆったりと子供たちに学習してもらうという環境を提供することが特徴的な学校である。「これからの学校のイメージを代表する学校」という噂にたがわぬ素晴らしい学校であった。また、幅広い年齢層だけでなく、重度の身体障害児も同じ学校で学んでいる。学習レベルや身体的な事情で学習環境に線引きをするのではなく、小さい社会のように様々な人間としての子供たちが共有する学習の場を、貴重なものと考えている学校である。同校では、一般クラス、少人数制の特別クラス、障がい者クラスの授業風景の視察がメインであったが、思いのほか教職員との意見交換を行うことができた。
 
【視察内容】
 クオッパヌンミ総合学校の生徒数は600名。それに対して教員が50名、アシスタントその他のサポートチームが50名。保健師、カウンセラーを含め専門家の出番が多い。一般クラスは19クラス、特別クラスも19クラスの合計38クラスという規模の学校である。
 
 ヒアリングの冒頭で語っていただいたのは、年間の教育方針についてであった。
 
 「今年のテーマは、生徒サービスチームの活動を活発化させること。そして生徒の言葉遣いをよくすること。家庭の問題も含め、コレまでの指導では不十分な点があることを感じており、そのことも含めて子ども達を取り巻く環境の変化が激しいということを認識している。孤立してしまう子ども達を救うための活動の一環として、サークル活動を実施しているので、その取り組みも充実させたい。」
 
 フィンランドでは、中学校および高校の時期においても、部活動というアクティビティが存在しない。学校が終われば、そのまま帰宅して習い事や自分の趣味、勉強の時間にあてているという。ただ、最近の傾向として、学校内で孤立している児童生徒が増えてきているということであり、その対策として日本でいうサークル活動を導入しているという。そういう意味で言えば、日本の部活動という取り組みは非常に有意義なものではないかとも実感した。
 
 また、今回のヒアリングでは、児童生徒がどのようなモチベーションをもって勉強に取り組んでいるかという説明も聞くことができた。たとえば、小学校3,4年生に対して学年当初に配布するプリント「自分で学ぶ生徒になろう」。小学校も中学年になると、児童一人一人に対して自分自身で「1年後の自分のあるべき姿」を目標設定をさせ、そのために努力をしなければという気持ちを抱かせる。教師はその目標達成のためにどのようなことをすればよいかアドバイスする。他人との相対的な競争ではなく、自分の理想像と競争する、いわゆる絶対的な競争が奨励されているのである。教師は、子どもたちが設定した目標が達成されるように最大限の努力をするというサポートとしての役割を果たしていく。
 
 続いて、中学生の国語の授業を見学する機会を得た。その授業では、youtubeを利用し、生徒達に映画動画を見せていたのが印象的であった。教室に一台パソコンがあり、教師の授業に効果的に活用されていた。そのようなインフラが整備されていれば、授業の事前準備が楽になるであろうし、インターネット環境を利用して、その場で子どもたちの疑問にも答えることができるだろう。
 
 最後に、教育現場がいかに変化してきたかという点を伺った。「環境の変化に合わせて、学校のあり方も少しずつ変化していかなければならない。これを学校改革というならば、各学校にそのような仕組みを内包させることが非常に重要である」との指摘であった。その具体的な事例として、学校独自のカリキュラムを作成しなければならないときには、学校長や一部の管理職だけでなく、現場の教師も含めて全員で協議するシステムが挙げられる。「各学校にカリキュラム編成や授業のあり方を委ねられたことが、学校改革の引き金になったと思う。裁量権を与えられて戸惑った先生も少なくなかったが、時が経つにつれてそのような問題もなくなっていった。教師にとっても、自分たちがしっかりしなければその影響が子どもたちに及んでしまう、という強い責任感と連帯感が強まるという結果を生んだ」と各学校の裁量権が拡大したことを高く評価していた。また、国による学校評価はないが、各自治体の教育委員会や学校独自の自己評価を実施している。たとえば、生徒の内申点や平均点が低いという結果が出ていれば、それは学校のやり方として間違っているという評価が下される。また、高校に進学した生徒のなかで、明らかに当該生徒はその学校に進学するのが不適切だったと判断されれば、それも中学校にフィードバックされるのである。
 
 「30年前の授業を思い出すと、大きなクラスで生徒たちは先生の授業を静かに聴くというスタイルであったが、今では双方向のコミュニケーションも含めて動く授業に変化してきている。グループ作業や考えさせる、表現させる授業が増えることにより、子どもたちが自分自身で積極的に学ぶという姿勢になったことは一番大きい。子どもたちのことを一番に考えて、それにふさわしい制度を考えるという順序でフィンランドは教育改革を実施してきた。組織効率やオトナの事情で教育の現場を規定するのはナンセンスだ」
 
 日本の教育改革の在り方を振り返った時、果たしてこのような意識が政策の中に貫徹されているだろうか。非常に耳が痛く、しかしもっともな指摘であると思う。