福岡市議会
民主・市民クラブ
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  1. 3.2.ストックホルム自立生活協同組合(STIL:Stocholm Indipendent Living)
 
【概要】
 STILは、1989年に創られた消費者協同組合であり、現在250名の会員と2,000名のパーソナルアシスタントからなる組織として活動を行なっている。以前の肢体障がい者は、市から派遣された介護人に世話をされ、不満や気が合わない場合でも、何も言えない受動的な立場であったが、肢体障がい者たちによる「自分が面倒を見てもらいたい人を、自分たちで決めたい」との考えから、LASS法(スウェーデン・パーソナル・アシスタント法)が制定され、パーソナルアシスタント(介護人)を自分で採用できるシステムが構築されている。同施設では、スウェーデンにおける障がい福祉施策の考え方について学んだ。冒頭ではこのLASS法について理解を深め、スウェーデンの障がい者福祉の基本理念について学び、その後所長のアドルフ氏との意見交換に及んだ。
 
【視察内容】
 今回のヒアリングに応じていただいたアドルフ=ラッカ氏は、1980年代にこの自立生活協同組合の立ち上げに携わった一人である。冒頭の「スウェーデンの福祉は理想的だといわれるが、障害者福祉の点では、福祉を受ける側の視点が十分ではない」という指摘は、自身も障がいを持つ人間としての観点からのものであろう。
 
 スウェーデンの福祉観について尋ねると、そもそも核家族化が進展する前はスウェーデンでも家庭で見ていたが、次第にそれが難しくなり施設型に移行してきた。近年までは施設型の障がい者福祉政策が重点だったが、次第に利用者の権利が拡大していき、現在では在宅型の障がい者サポート体制がメインになってきているということである。1994年に施行されたLASS法(注釈7)が契機となり、現在では自分のアパートに気に入ったアシスタントを電話で要求することが出来るようになった。しかし、これも第一のステップでしかないと思っている。アドルフ氏は「全ての障がい者が、自分の家で生活できることが非常に重要という視点をアメリカで学んだ」として、「障がい者は自分のライフサイクルに合わせて、自由にアシスタントを選ぶことが出来なくてはならないとも思った」と、LASS法制定に向けてSTILが果たした役割の重要性を強調された。
 
 次に、STILの役割についてヒアリングを行なった。STILの大きな役割は介助利用者の協同組合の拠点的役割も担っている。介助手当は社会保険局から介助利用者の銀行口座に振込まれる、あるいは介助利用者の希望でサービス供給者に直接支払われる場合もあるが、STILはこうしたサービスも介助利用者の代わりに行なう協同組合として機能している。サービス供給者といっても、STILが介助者をプールし、利用者に配分するのではない。介助利用者は自分で介助者の募集、契約をして、自らの介助ニーズに対応できるように訓練し、介助者と対等な関係を結ぶ。そのような責任はあくまでも介助利用者本人が負うことになっているため、STILは利用者がそのような管理能力を獲得するように側面から支援するのである。
 
 STILの具体的な支援としては、1つ目は介助利用者に介助手当システムに関する法的な諸権利を知らせることである。2つ目は介助手当の決定などに不服がある場合、訴訟を支援する役割であり、そのための法の専門家と連携している。3つ目は利用者が介助者のスーパーバイザーとなれるよう、介助者に対する管理能力を獲得できるよう10日間の教育プログラムを実施している。たとえば、自らのニーズの評価力や、介助手当を申請し、支給を獲得するための主張力、自らの生活の質を高めるために介助者を活用していく力、具体的かつ全体的に介助者を管理する力などを高めるためのプログラムである。介助者の雇用主としての責任能力を高めるための訓練(労働組合との合意や労働法に規定された介助者の雇用状況、雇用の場での安全性と健康に関連した法的知識の習得など)もなされている。
 
 4つ目は介助利用者としての経験の浅い人たちと長い人たちとの交流の場を設定するといったピアサポートグループの運営によって、介助利用者の自立能力を高めることである。 5つ目は知的障がいをもつ介助利用者に対して、その家族等が介助者を募集して訓練し、監督する機能を果たせない場合、代理スーパーバイザーとして支援することである(注釈8)。
 
 最後にアドルフ氏は、「自分の面倒を見てもらいたい人は、自分自身で選ぶ。それが、人間としての当然の権利である」点を強く強調された。障がいを持つ人間であっても、健常者と同じように自分の住みたい地域に住み、自分のライフサイクルに合わせて生活をする権利は当然保障されなければならず、そのような権利を守るために政府はあらゆる手段を講じなければならないということであろう。
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(注釈7)ここで、スウェーデンの障がい者福祉に重大な変化をもたらしたLASS法について触れておく必要がある。この法律は、着脱衣、入浴、食事、コミュニケーション等の基礎的活動のため、1週間最低20時間以上の介助・支援を必要とする65歳までのすべてのものに対して、社会保険局から介助手当を支給することを定めたもの(65歳以上の介助を必要とするものおよび週20時間以下の介助を要するものはコミューンからの援助が得られる)であり、障がい者の地域自立生活権の保障を目指したものである。同法は、要介助者=介助利用者が介助手当を受給するために法的に保障された権利を付与することを定めたものであり、さまざまな障がいをもつ人たちが生活の質を高められるように援助すること、具体的には親・家族から独立し、施設から地域に移れるように、また創造的(生産的)市民として活躍できるように支援することを目的としているのである。ヒアリングに応じていただいたアドルフ氏も「同法は自己決定、自己尊重、人間の尊厳のために、そしてさまざまな障がいをもつ人たちのための社会参加と平等のためにも門戸を開放するという意図で作られたもの」と評価している。
 
 この法律の意義としては、ひとつはこれまでのホームヘルパー派遣方式が要介助者である障がい者を介助サービスの受け身的な受給者とすることへの反省に立って、障がい者の自己決定の尊重を重視し、介助手当の支給を通して、障がい者本人が介助者を選択し、雇用できるシステムを作り出したことである。この方式により、障がい者は介助の消費者、利用者の立場から、自らが主体となって介助サービスを全体的に管理しうる力量の形成、すなわち自立生活の形成に役立てうるからである。
 
 もうひとつは、これまでのスウェーデンの充実した介助サービスの水準自体は継承した同法が、常時介助を必要とする障がい者を含むすべての障がい者の1人暮らし、結婚生活を含めた自立生活を可能にするためのサービス水準を保障しうることである。その中で特筆すべき内容は、その介助手当の受給資格認定にあたっては資産調査を必要としないことである。したがって介助手当額の認定は「介助利用者あるいは利用者家族の収入や富に依存するのではなくて、唯一必要とされる時間数に基づく」こと、すなわち個別的介助ニーズにのみ基づいて介助時間量=介助手当額が決定されることである。定藤丈弘『スウェーデンの身体障害者の自立と介助』「ノーマライゼーション―障害者の福祉―1997年3月号」pp.38-41
 
(注釈8)これらSTILの役割については、現地でのヒアリングもとに、定藤(1997)を参考にまとめた。