福岡市議会
民主・市民クラブ
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 2.3.メリウスバ小学校
 
【概要】
 メリウスバ小学校は、エスポー市にあるプリスクールから2年生までの児童が通う小学校である。校長はハンナ=サラコルピ。学校自体のスペースの問題から小学校2年生までの学校として運営されているが、フィンランドではまったく異常なことではないとのこと。このような状況で、「逆に大切な低学年の時期にしっかり支援をしたい」という姿勢で学習の場を提供しているのがこの学校の特徴である。クラス編成はフレキシブルで、各児童の学習状況に応じて1年前または少し先の学習も実施する。生徒個々のニーズに合った学習を提供すると言う意味で、一般的なクラス編成や学齢にとらわれない学習環境を提供している。その効果は高く評価されており、他校に対しての特別支援コンサルタントも行っている。同校ではその教育現場を視察し、また校長との意見交換の場を持つことができた。小学校就学前の児童から小学校2年生(つまり、6〜8歳までの児童)までを受け入れるという学校施設は日本には存在しないので、非常に興味深い視察となった。
 
【校長との質疑応答】
 最初に、ハンナ=サラコルピ学校長による学校説明を受け、その後質疑応答という形式でヒアリングは進んだ。はじめに言及されたのは、教育の平等性が揺らぎ始めているという実態であった。「平等で均質な教育を心がけているが、各学校で差がついていることも事実。その中でも、このエスポー市は恵まれた環境にある」という。メリウスバ小学校は、特に低学年に対する子ども達のサポートのあり方に定評がある学校。ここで実践したことをエスポー市にフィードバックし、全ての学校の参考になるように努力している。就学前教育、スモールクラス(特別支援クラス)(注釈5)が特徴的で、学童保育も手がけている。学童保育も提供している学校ではあるが、学童保育の部分は外注しており、学校の先生が手掛けているわけでない。
 
 メリウスバ小学校の生徒数は141名。それに対して教員数は14名、アシスタント10名(4名が保育園教諭の資格を、2名が特別教員の資格を保有している)という体制で学校運営がなされている。毎日定時に始まるわけではなく、曜日によっては8時に始まるときもあれば9時に始まるときもある。このような時間割も各学校が独自に決める仕組みになっており、メリウスバ小学校では年間189日の授業カリキュラムを組んでいる。
 
 また、教育にとって重要な意識として、「児童一人ひとりの能力を見極め、それに適合した教育が与えられなければならない」という点を強調された。6歳だから、7歳だからといったはめ込み型の教育では個々のニーズに対応できているとは言えない。子どもたちの成長のスピードは個々人で違うということが前提にある。特に、特別なケアが必要な児童に関しては、小学校に上がってくる前の段階で、専門機関や医療機関から個々人のカルテが回ってくる。それに基づき、個人指導案が作られるということである。そのためには、教員もそれ相応の能力をつけなければならない。そういう意味で、個々の教員のブラッシュアップも課題であるらしい。
 
 教育方針の決定に関しては、校長、サイコロジスト、特別教員2名、カウンセラー、保健師が毎週2時間の会議を開き、子どもたちの状況について意見交換する。
 
【学校内見学】
 実際に、移民も含めた就学前教育15名と小学1年生8名の複式クラスも見ることができた(右写真)。教室では、2名の先生と1名のアシスタントの合計3名の大人が指導に当たっていた。この1年生8名は、通常クラスにおいて他の1年生と一緒に学ぶことが難しい子ども達であるとのこと。年齢が下の児童とともに学ぶことにより、自信を持ってもらうためにも、複式クラスは有効だということである。
 
 メリウスバ小学校では、「スタートクラス」という制度も採用されている。スタートクラスは、小学校1年生にあがるのは難しいと判断された子どもたちが学ぶクラスである。集中的にトレーニングを受け、一部は普通学級に進学するが、多くはスモールクラスで学ぶということである。スタートクラスで学ぶには、専門家の診断が必要。「スタートクラスがなければ、70%近い生徒達は、中学校の特別クラスに入ることになるだろう」と、校長はこのスタートクラスの意義を語ってくれた。5歳児検診の段階で、問題のある児童は早期に対応を講じるようだ。
 
 通常の学級規模については大体22名のクラス(右の写真は通常クラスの授業風景)。2名の先生とヘルパー1名。「子ども一人ひとりに対応するためには、それだけ多くの大人の数が必要。40人クラスだと、ある子どもに問題があると思っても対応できないという辛い状況があると思う。日本の学校の先生に同情する」、そのような意見も伺った。ヘルパーに教員資格は必要ないが、職業訓練学校で2年間かけて資格をとる必要がある。
 
 授業見学を終え、再度校長先生との意見交換。「建物も古く、敷地も狭い学校で何が出来るのかと思うかもしれないが、それは子どもたちに必要な教育を受けさせることとは関係が無い」。すなわち、重要なのは、一人ひとりの児童のニーズにいかに大人が対応できるかということであろう。これを前提として、最後に校長に必要な能力を尋ねたところ、「自分の目指す教育方針を実現するためのスタッフを如何にして集めるか、という点も含めた経営能力である」と力強く回答された。
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(注釈5) 特別支援クラスといっても、フィンランドの特別支援教育の定義は日本のそれよりも広義であると感じた。病気や発達の遅れ、情緒不安定やそれに類する状況といった範囲に限定されず、「通常のグループの中で行われる指導では学習不能になる」といった大きな意味で捉えられている。よって、学習困難者や移民の子どもたちも含まれる。