福岡市議会
民主・市民クラブ
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 3.3.老人福祉施設ナーシングホーム(Malare Backen)
 
【概要】
 当該施設は、認知症、末期高齢者、年金受給者住宅など“老人センター”を基本アイディアにスタートした施設である。ここでは、スウェーデンにおける高齢者福祉の考え方について学び、施設見学を行なった。事前の情報では、スウェーデンの税金主体の高齢者福祉が行き詰まりをみせているという指摘もあり、老人介護については保険方式の適用も議論されているとのことであったため、最近の高齢者福祉のあり方を巡る議論についても意見交換できた。
 
【視察内容】
 今回の視察先であるマレア・バッケンという施設は、スウェーデンの地方政府であるコミューンが提供する施設介護サービスの中でも「ナーシングホーム(注釈9)」という種類の施設介護サービスである。老人ホームに入居している高齢者より、介護度合いが高い、または医療サービスの提供が必要である高齢者及び高齢障害者用の施設であるため、それに対応できる設備や人材が確保されている点が特徴である。
 
 今回の視察に対応していただいたのは、所長のアンナ女史。冒頭ではナーシングホームの仕組みとマレア・バッケンの概要について説明を受けた。マレア・バッケンはストックホルムで2番目に大きいナーシングホームで、全部で52名の利用者が11のユニットに分かれて生活している。そのうち6ユニットは認知症と診断された利用者のためのものである。運営は市の責任で行い、独立採算制をとっている。
 
 スウェーデンでは、市町村が高齢者ケアに大きな責任を持つ。市町村の歳出の80%が福祉・教育費であることからもそれが裏づけられており、さらに高齢者ケアの質の保証も市町村の責任である。
 
 そのような中で、2002年からスウェーデンでは、高齢者福祉サービスを受給する際の利用者負担の上限額が定められた。たとえばストックホルム市では、お年寄り一人当たりに対して1日1,500〜1,800クローネが市から施設に対して支払われる。これ以上の額は施設に対して支給されないということになるので、施設としてもこの上限額を意識しての運営をせざるを得ないということである。さらにスウェーデンでは、老後も最低限の生活を送るために、お年寄りが必要な所持金を持つことも保障されている。ただ、お年寄りは年金のうち毎月1,500〜1,600クローネを残高として残さなくてはならないということもあり、所持金を持つ自由に対する義務としての制度も確立しているようだ。
 
 施設介護から自宅介護へ、これがスウェーデンにおける高齢者ケアの近年の大きな流れである。日本でいうところの特別養護老人ホームのような「特別住宅」は、ここ5年間で約1万床以上を削減しているとのこと。ただ、施設介護が必要であったり、逆に施設介護を望むお年寄りが存在したりするのも事実であり、そのような人々は入所までに数か月待つこともざらであるとのこと。施設の入居を待つお年寄りに対しては、在宅介護やショートステイを組み合わせて対応しているというのが現状である。
 
 スウェーデンの老人ホーム、認知症ホームは、市の直営、民間、組合という3種類がある。民営化に関しては、日本とは比較にならないほど緩やかである。1990年代から高齢者福祉サービスの民営化が導入されたが、全体の民営化率は約10%であり、市町村によっても取り組みに差があるのが現状である。スウェーデンでは、在宅介護やナーシングホームも含めた高齢者福祉サービスが民営化されても、スタッフはそのまま残ることが一般的であるとのこと。「同一の仕事に対しては、同一の賃金を」という建前はあるものの、実質的には賃金減につながるようなケースもあるということだった。高齢者福祉サービスの供給人口としては、現在は人手不足には悩んでいないということだが、人材確保は今後の大きな課題であるという認識を示された(注釈10)。
 
  最後に、ナーシングホームの施設内見学を行った。室内や廊下は暖色系のインテリアや装飾品が設置されており、安心感が持てるような作りになっている。さらに、お年寄りの方々が昔を懐かしむことができるようにと、思い出となるポスターや写真等も飾られていた。各人の部屋を見ることができたが、各々が自分好みのレイアウトで広々とした間取りの中で生活しているとのことである。
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(注釈9) スウェーデンの社会サービス法は、高齢者用特別住居や施設を1つの高齢者支援として規定している。1999年時点で65歳以上の高齢者のうち約8%、80歳以上の後期高齢者の約20%が何らかの高齢者特別住居に入居している。以下、高齢者が利用する居住形態の類型を整理しておく。以下は、㈶自治体国際化協会ホームページを参照した。
 
(1) 高齢者のための特別住居
 一般のアパートタイプのビルで、この住居に入居するのは原則として自分で日常生活の一通りのことができる人である。特別住居は36〜37m2の広さがあり、バリアフリー仕様で、居間、小さな寝室コーナーのような休む場所、小さなキッチン、大きめの衛生スペース(トイレとバス)という構成になっている。
 
(2) 老人ホーム
 コミューンが自宅やサービスハウス等で日常生活が困難になってきた高齢者のために用意する最も伝統的な住居である。1980年代にこの老人ホームをなくすべきだという意見が出て数が減少した時期もあったが、やはり高齢者にとっては必要な施設であるということになり、時代の変化に合わせた新しい形態の老人ホームも建設され始めている。老人ホームに入居する高齢者の大半が、トイレや浴室の付設された個人部屋に入っており、ホームには看護師やホームヘルパーが配置されている。
 
(3) ナーシングホーム
 老人ホームに入居している高齢者より、介護度合いが高い、または医療サービスの提供が必要である高齢者及び高齢障害者用の施設であるため、それに対応できる設備や人材が確保されている。
 
(4) グループホーム
 グループホームという居住形態はもともと知的障害者用の施設として利用されており、高齢者福祉施設として利用され始めたのは最近であるが、痴呆症状のある高齢者が入居する住居としてその数も増加傾向にある。共同住居として建設されており、入居している高齢者は各自個室が与えられ、食事室や居間、洗濯室等は共用となっている。また、医療、介護サービスが必要な時にはいつでも利用できることとされている。入居者はたいてい5〜6人であり、介護職員と入居者の関係が密接になり、一種の家族のような雰囲気がつくれるため、高齢者は自宅にいる感覚に似た環境で生活することができる。
 
(注釈10)スウェーデンの高齢者福祉の現場の様子については、週刊東洋経済(2008)pp.46-49を事前資料として活用しながらまとめた。