福岡市議会
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 2.2.フィンランド国家教育委員会
 
【概要】
 フィンランド国家教育委員会は、教育省の下に位置する組織である。教育省では学校の設立、教育サービス提供上の法的整備など主に法的な対応をしているのに対し、実際の教育現場向けのコアカリキュラムの作成や授業数などの仔細については国家教育委員会が大枠を作る(ただし、実際の学校運営方法・教育手段などについては各学校に委ねられている)。国家教育委員会ではフィンランドの教育理念、教育システムの概要、また教員養成についてレクチャーを受け、意見交換を実施した。とりわけ教育理念の部分について、日本のそれとの違いを確認し、その結果、個別具体的な施策にどれだけの違いが出てくるのかを学ぶことができた。また、今回の視察研修の問題意識の根幹である「国際競争力の向上と教育との相関関係」についても確認し、フィンランドの教育が戦略的にデザインされていることが明らかになった。
 
【国と地方自治体の関係】
 フィンランドには、中央政府の教育行政機関として教育省(Ministry of Education)と国家教育委員会(National Board of Education)が存在する。国家教育委員会は教育省の下部組織ではあるものの、一定の独立性を有する機関である。教育省の職員は行政官であり、学校建物や教師の給与など、教育条件の整備も教育省で実施している。その他、教育に関する制度構築や権限規定などの政治的決定に係る業務に関与する。義務教育費については、国が地方自治体ごとに必要経費を算定し、そのうち45%を国が、55%を地方自治体が負担することになっている。フィンランドでは、地方自治体ごとに必要経費は異なるという認識があり、各自治体の実情に応じて総額を見積もることも、教育省の業務である。
 
 一方、国家教育委員会は、教育内容の全体的な枠組みであるナショナル・コア・カリキュラムの策定、国レベルでの教育評価、情報サービス(教育統計や教育データベースの提供、国際的な情報交換)など、主に教育内容の水準維持にかかわる非政治的かつ専門的な業務を担当する。このように、国家教育委員会が教育内容と教育方法を統括しているため、これらが一時的な政治の論理や地方の利害に流されて決定されることがないよう、学校教育に関する各分野の専門家集団で形成されている(注釈1)。
 
 フィンランドにおける義務教育の提供責任は、国内444の基礎自治体(市町村)にあるが、とりわけその権限の多くは実質的には教育の提供主体である各学校単位に委譲されている。各学校は教員の雇用を行うほか、予算の使用、学級編成、カリキュラム編成などにおいても多くの裁量が認められている(注釈2)。
 
【フィンランドの教育システム】
 フィンランドの教育政策において中心基盤となるのは、年齢、居住地、経済状況、性別、母語などにかかわらず、すべての国民に教育を受ける平等な機会を提供することである。そのため就学前教育(注釈3)、基礎教育(小中学校)、後期高等教育(高校)は原則無料で提供されることになっている。学費、福祉サービス、給食はこれらの教育期間においても無料で提供され、必要な教材や教科書についても、中学校までは無料である(高校進学以降は有料)。
 
 基礎教育(日本でいうところの義務教育)は、原則7歳から15歳までの9年間と定められている。日本のように小学校6年、中学校3年という厳格な区分けがされているわけではない。基礎自治体は、居住地に近い学校をそれぞれの児童に割り当てるが、ある一定の制限はあるものの、学校の特色に合わせて両親は自由に学校を選択することもできる。基礎教育を修了した子どもたちは、「高等学校」または「職業訓練学校」への進学を選択できる(注釈4)。高等学校へ入学するための試験はなく、生徒の選抜は基礎教育時代の内申書を材料に実施される。職業訓練学校の選抜基準には、同様に内申書の評価のほか、社会経験がある者に対してはそれまでの実務経験やそれに準ずる要素、必要に応じて入学試験や適性試験が用いられている。基礎教育を終えて、高等学校または職業訓練学校へ進学する子どもたちは、対象年齢の90%を超えている。
 
 高等教育には「大学」と「ポリテクニック(高等職業専門教育)」があり、より専門的な高等教育を提供している。どちらにもそれぞれ特色があり、大学は学術的な研究や指導を強調し、ポリテクニックでは企業社会での実用性を強調した教育内容になっている。
 
 このように言うと、高校時代を高等学校で過ごすか、職業訓練学校で過ごすかで将来の大学時代の進路まで決まってしまうように聞こえるが、高等学校と職業訓練学校の相互の垣根は高くない。職業訓練学校から高等学校に編入する子どもたちも少なくない。これは、大学とポリテクニックの関係にも言えることである。
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(注釈1) 吉田多美子『フィンランド及びイギリスにおける義務教育の評価制度の比較—学力テスト、学校評価を中心に—』「レファレンス2007年5月号」p.97
 
(注釈2) 吉田(2007)p.98
 
(注釈3) 2001年から、フィンランドでは6歳児は無料で就学前教育を受ける権利が出来た。就学前教育は学校や保育園、ファミリー・デイケアセンターのいずれでも提供されるものであり、児童福祉ではなく、あくまでも教育官庁が所管する領域である。2004年現在で、6歳児の95%が就学前教育を受けている。
 
(注釈4) 高等学校と職業訓練学校の間に優劣があるわけではない。研究職を目指す人間は高等学校へ、企業人やビジネスパーソンとしての活躍したい人間は職業訓練学校へ進学するというケースが多いとのことである。