福岡市議会
民主・市民クラブ
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 3.5.総括
 
 今回のスウェーデン訪問においては、障がい者福祉、高齢者福祉、児童福祉の3つの分野を視察することができた。障がい者福祉の分野では、スウェーデンでは障がい者の「地域自立生活権の保障」を目指したLASS法の制定が、障がい福祉の分野を劇的に変えたことを学んだ。LASS法は自己決定、自己尊重、人間の尊厳のために、そしてさまざまな障がいをもつ人たちのための社会参加と平等のためにも門戸を開放するという意図で作られたものとしてスウェーデンでも高く評価されている。この法律により、これまでのホームヘルパー派遣方式が要介助者である障がい者を介助サービスの「受け身的な受給者」とすることへの反省に立って、障がい者の自己決定の尊重を重視し、介助手当の支給を通して、障がい者本人が介助者を選択し、雇用できるシステムが作り出された。この方式により、障がい者は介助の消費者、利用者の立場から、自らが主体となって介助サービスを全体的に管理しうる力量の形成、すなわち「自立生活の形成」が政策目標として目指されるようになった。
 
 高齢者福祉の分野でも、基礎自治体の政策の中に「地域自立生活権の保障」という理念が色濃く反映されている点を確認できた。基本的には自分たちが住みたい場所で老後を迎えることを最優先とし、自立した生活を送るために必要な高齢者福祉サービスが在宅で提供されている。施設で介護する場合でも、一人当たりの専有面積をゆったりと確保し、利用者のニーズに合わせてサービスを提供するという体制が整っていたように感じた。
 
 児童福祉の分野では、何よりも「子ども達の権利が最重要」として、それをいかに保障するかという政府と地方自治体の強い姿勢を感じた。子ども達には、診療を受ける、必要に応じて治療を受ける権利があるということが重要視されているのである。
 
 ただ、今回の視察では、「スウェーデン・モデル」を根幹から支える年金・医療・労働の分野においての見識を広げる機会を得ることができなかった。また、これらの分野においてヒアリングをしても、各分野で設計されている制度自体、国の責任において実現しているものが多く、それを日本に持ち帰り市町村レベルで実現することはそもそも困難であるという制約もあった。
 
 少なくとも今回の視察で実感したのは、福祉施策においては「国民一人ひとりの権利を、具体的政策の中でどれだけ担保できるか」という中央政府の強い姿勢があり、それを後押しする(強制する?)国民の政治に対する高い意識が存在するということである。日本においても、福祉の分野で理念をうたった様々な法律が制定されてはいるが、その運用手法や現場の状況を鑑みると、スウェーデン以上に課題が多いことを認識させられた。その理由は、日本においてはおそらく様々な法律の多くが理念的な条文の羅列というレベルでしかなく、その理念を具体的な政策として落とし込むことができていないからではなかろうか。また、具体的な政策に落とし込むことができたとしても、それが画一的な運用を強要するものであり、各地域によってはニーズを満たすことが出来ないという不満が挙がってくるという現状もある。このような観点から、中央政府は法律制定の際には「どのような権利が守られなければならないか」ということを規定することのみを実施し、その権利を擁護する(または実現する)ための手法や運営方法については、地方の実情に合わせて、それぞれの地方自治体が責任を持つという制度設計が必要であると思われる。われわれ地方議員も、そのような制度設計がなされるよう、国に対して要望していかなければならないと強く実感した。